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怖い?深い?ウンゲラー遺作『やばっ!』の読み聞かせと感想

こんにちは、絵本ブログ“ネズミック”の管理人です🐭

今回は、2025年2月に日本で出版されたばかりの新刊絵本『やばっ!』をご紹介します。
作者は『すてきな三にんぐみ』で知られるトミー・ウンゲラーさん。本作は、彼の“遺作”となった特別な一冊です。

\トミー・ウンゲラーの力強い最期の絵本を手にしてみてください!/

目次

絵本『やばっ!』のあらすじ

人が去り、草木も枯れた地球。
ただ一人残った「ぼく」は“影”に導かれ、命からがら旅を続けます。
やがて出会ったのは「ポー」という生き物。ふたりは力を合わせて安息の地を見つけるものの──
「この世界で、どう生きていけばいいのか?」という問いを残して物語は終わります。

対象年齢は?

出版社からの明記はなし。我が家では5歳に読み聞かせましたが、怖がることなく集中して聞いていました。
ただし背景やメッセージを理解するには小学校高学年以上がおすすめ。

読み聞かせ自分で読む
5歳ごろ〜小学校高学年以上

\『やばっ!』を読んだみんなの口コミ・レビューはこちら/

作者トミー・ウンゲラーさんとは?

1931年、フランス・ストラスブール生まれ。幼い頃に父を亡くし、第二次世界大戦中には故郷が占領されるという過酷な体験をしました。
1956年にアメリカへ渡り、翌年『The Mellops Go Flying(メロップス一家、空へ)』で絵本作家デビュー。1998年には国際アンデルセン賞を受賞し、「ちいさなノーベル賞」と呼ばれる世界的な評価を得ました。

代表作には『すてきな三にんぐみ』『ゼラルダと人喰い鬼』『エミールくんがんばる』などがあります。
いずれの作品も「すてき」「かわいい」で終わらず、読後に“モヤモヤ感”を残すのが大きな特徴です。

たとえば──

  • すてきな三にんぐみ』では、泥棒が孤児を助ける姿に「泥棒はいいことをしてもいいの?」と問いが残ります。
  • ゼラルダと人喰い鬼』では、鬼が改心しても人を食べる描写が消えず、スッキリしない余韻が漂います。

「こわい」「やばい」「どうしよう」──子どもが思わず口にする素直な感覚。
その小さなモヤモヤを大切にし、あえて結論を示さず「考える力」を託す。
それがウンゲラー作品に一貫して流れるメッセージなのです。ハッピーエンド?」という問いを読者に投げかけるのです。

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『やばっ!』に込められた想い

この絵本には、トミー・ウンゲラーさん自身の人生と、家族への深い想いが色濃く映し出されています。

幼少期の体験と“影”の存在

ウンゲラーさんは、幼い頃に父を亡くし、第二次世界大戦中に故郷ストラスブールが占領されるという厳しい経験をしました。
その孤独の中で、自分を支えてくれたのが兄のベルナール。彼はまるで「影」のように、常にそばに寄り添い、進むべき道を示してくれたといいます。
『やばっ!』に登場する“カゲ”は、そんな兄の象徴。危機の中で主人公を導き、生き抜く力を与える存在なのです。

孫たちへ贈る物語

絵本の最後には「孫たちへこの絵本を贈る」という一文があります。
戦争や環境破壊で世界が崩れていく描写は決して遠いフィクションではなく、今を生きる子どもたちが直面するかもしれない現実でもあります。
だからこそウンゲラーさんは、「絶望の中でも希望を見つけて生き抜いてほしい」という願いを込めて、孫フェリシティちゃんとキーランくんにこの絵本を託しました。

現代への警告と希望

物語に描かれるのは、文明が行き詰まり、人類が地球を捨てて月に逃げる世界。
けれど月すら汚染され、逃げ場はない──。
これは現代社会の写し鏡のようでもあります。戦争、環境破壊、災害、パンデミック…。私たちが直面してきた出来事が重なって見えるのです。

それでも絵本は、ただの絶望で終わりません。
「誰かがそばにいてくれること」
「手を取り合えば、生き抜けること」
ウンゲラーさんが最後に残したのは、その揺るぎない希望でした。

この問いは、絵本を閉じたあと、わたしたちに静かに響いてきます。
未来をつくる子どもたちに、ぜひ読んでもらいたい一冊です。

小さな子どもに読み聞かせるときのコツは?

小さな子には、言葉の意味を説明するよりも「いっしょに雰囲気を味わうこと」が大切です。
そのためのコツを、読み聞かせ前・読んでいるとき・読んだ後に分けてご紹介します。

① 読み始める前に

静かな環境を用意する

テレビや音を止めて、絵本の世界に集中できるように。

表紙や1ページ目を見せながら問いかける

「この影、なにに見える?」と聞くと、子どもが自然にお話に入り込みます。

② 読んでいるときに

この絵本は、影に連れられてどんどん進んでいくお話。
だから読むときも、ちょっと一緒に冒険してるような気持ちで声を出すと、子どももすんなり入り込んでくれます。

テンポは場面に合わせて

遅すぎるとだらけちゃうし、早すぎると味わえない。
崩れるシーンは早めに、安心できる場面はちょっとゆっくり…それだけで緊張と安心が伝わります。

「やばっ!」は声色を変えて

実はこの「やばっ!」という言葉、全部で8回も登場します。
うちでは場面ごとに声を変えて読んでいました。

  • ビックリして息をのむような感じ
  • 不安でドキドキしている感じ
  • 焦って逃げ出したくなる感じ

そうやって声色を変えると、子どもは「次はどんな“やばっ”かな?」と楽しみに待つようになります。

“間”を置く勇気

たとえば、
「ひとびとは にげて……」
と読んでから少し黙って、

「月にいってしまった。」
と静かに続ける。

たった数秒の沈黙で、空気ががらりと変わります。
声よりも、“間”の力が子どもの心に強く残ることもあるんです。

③読み終わったあとに

感想を急がない

絵本を閉じてすぐ「どうだった?」と聞くよりも、しばらく静かに絵を眺めさせてみましょう。
すると、子どもがぽつりと「ポー、かわいそうだったね」と言ったり、「また“やばっ!”って言ってたね」とつぶやくことがあります。
その一言を受け止めて、そこから会話を広げてあげると自然です。

余韻を一緒に味わう

ウンゲラー作品はハッキリした答えを出さないからこそ、「どう思ったのかな」と子どもが自分で考える時間が大切。
大人も一緒に「ここはちょっと怖かったね」と共有すると、“考える楽しさ”につながります。

繰り返し読むことを大事に

「もう一回読んで!」のリクエストが出たら迷わずOK。
一度目はストーリーを追い、二度目は絵の細部に気づくことも。
同じページでも、子どもの心が感じ取ることは毎回ちがいます。

ワンポイントアドバイス|読み終わったあとのNG例

  • すぐに「どうだった?」と聞く
    • 感想を急かすと、子どもは「わからない」「…」と答えに詰まってしまいます。
  • 大人の答えを押しつける
    • 「これは戦争のことを表しているんだよ」など解説を加えすぎると、子どもの自由な想像が狭まってしまいます。
  • 「怖かったでしょ?」と決めつける
    • 本人はそう感じていない場合も。まずは子どもから出てきた言葉を待ちましょう。
  • 1回で終わらせる
    • 「もう読んだからおしまい!」ではもったいない。同じ本を繰り返し読むことで、新しい発見や感情が育ちます。

番外編:アトラクションとして受け取ったとき

小さな子どもは、社会的なテーマよりも「爆発!」「逃げる!」といったスリルを遊園地のアトラクションのように体感することがあります。
それは自然な反応なので、無理に修正する必要はありません。

意味に引き戻さない

「これは環境破壊の話だよ」と大人が解説するよりも、「ドキドキしたね」「ハラハラしたね」と感じたままを共有しましょう。

感覚を肯定する

「怖いのにもう一回!」は、ジェットコースターを楽しむのと同じ。
「怖いけど楽しい」を味わうことが、子どもの成長につながります。

少し大きくなったら“問い”を渡す

年齢が上がったら、「なんで人は月に逃げちゃったんだろう?」と軽く問いかけると、子ども自身が考え始めます。

小さな子はまず「体感」で楽しみ、大きくなったときに「意味」に気づいていく。
そう思えば、親としても安心して絵本を手渡せます。

まとめ|未来を生きる子どもたちへ

『やばっ!』は、ただの終末物語ではなく、トミー・ウンゲラーが孫たち、そして未来の子どもたちに託したメッセージが込められた一冊です。

  • 世界が崩れても「誰かがそばにいる」ことの希望
  • 答えを示さず「モヤモヤ」を残すことで育まれる考える力
  • 「こわい」「やばい」と感じる体験そのものが子どもを強くする

小さな子にはまず“雰囲気を味わう読書体験”を、大きくなってからは“問いを考える読書”を。
年齢に応じて違う表情を見せてくれる絵本だからこそ、繰り返し手に取りたい作品です。

ぜひ、ご家庭でもウンゲラー最後のメッセージを一緒に味わってみてください。

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この記事を書いた人

子どもの“ことばにならない気持ち”を、
絵本と日々の育児から読み解くブログ「絵本で子育てするママブログ」を書いています。

こだわり強め・天邪鬼気質の息子との毎日で、
「気持ちに寄り添う読み聞かせ」の大切さを痛感。
その経験から、親子の心がふっと軽くなるレビューや、
発達や気持ちの視点を交えた記事を発信しています。

生まれてから読み聞かせた絵本は700冊以上。
ブログでは170冊ほどレビューしています(随時更新)。
“忙しい日でも1分で読めるレビュー”を目指して執筆中です。

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